風信帖


平成20ǯ03月22日 [長年日記]

_ [さびし] 献体急増 21万6千人

 以下、読売新聞の記事 の抜粋。

 大学の医学部に、献体を申し出る人が増えている。解剖実習は医師免許を得るために欠かせない課程の一つ。大学はかつて献体集めに大変な苦労をしたが、最近では希望者が多すぎて登録の制限を始めたケースもある。世の中、何が変わったのか。

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 「私なんて必要ないんでしょ。献体のことだって……お母さんはいつも自分ひとり」。女優の松嶋菜々子さんが、悲しそうな表情を浮かべる。昨年公開された映画「眉山(びざん)」(さだまさしさん原作)のワンシーンだ。がんに侵され、死期の迫った母は家族に相談なく、献体を決めた。娘はそれを納得できずにいるのだ。

 献体は自らの体を医学の教材にと、代償を求めず提供すること。しかし遺族にとっては、死後であっても遺体にメスを入れるのは、かわいそうに思えるし、遺骨が家族に帰るまでに平均2年かかる。「娘」が戸惑うのはこうした事情からだ。

 「県内を駆け回っても、なかなか必要な数が集まらず、東京の医大から分けてもらっていました」。こう振り返るのは、琉球大の担当者。本人がその気でも家族が反対したりで、なかなか確保が進まなかったという。

 ところが、近年、状況は一変している。長く献体運動を進めてきた「篤志解剖全国連合会」(東京、87大学加盟)によると、20年前、10万人に満たなかった献体登録者は現在、21万6000人と倍増している。

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 神戸大学の献体窓口団体「のじぎく会」には現在、約5500人が登録しているが、一時は献体が必要数を上回る事態に。「解剖されないまま遺体の保管が長くなるのは、遺族を心配させる」と1997年から9年間、入会者を年50人に制限した。

 このほか、千葉大など多くの大学が、年齢制限や面接といった方法で登録数の調整に踏み切った。献体の実態調査をする財団法人「日本篤志献体協会」(東京)は「相当数の大学で制限や登録の一時停止など、何らかの措置を講じた」としている。

 献体運動にかかわってきた順天堂大の坂井建雄教授は、日本人の死に対する意識が変わったことが大きいと分析する。「通夜から納骨に至るまで、何日もかかる一連の儀式を見届けることで、日本人は肉親の死を受け入れてきた。でも、医学の進歩に役立つという意識を持つことで、多くの人が死に理性的に対処できるようになったのでは」と話す。

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 「申込者はほとんどが60代か70代。自分の死を思い描ける年齢になって、世のために何か役立てたら、と思われるようです」。こう話すのは、千葉大学の窓口団体「千葉白菊会」会長の丸山武文さん(70)。同会には年約300件もの相談が寄せられる。

 中には、懇願するように頭を下げる人も。「両親や兄弟、子どももいない。だから死後の面倒を見てほしい、というのです。本来の趣旨と外れているので、お断りしたいのですが」。大学は慰霊を行い、遺骨の引き取り手がない場合、納骨もする。千葉大には戦前に作られた納骨堂があり、今でも年に数体が納められる。

 5年前には、悲しい出来事があった。登録者の80代の男性がアパートで孤独死したのだ。発見が遅かったために、遺体の損傷が激しく、大学に送ることはできなかった。丸山さんは思い出すたび、やるせない気持ちになる。

 社会の寂しさは、だれが治療するのだろう。

 まずは、家族だよね…。でも、いろいろ考えさせられる。


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